2012年12月12日水曜日

個人ゲノム全解析 その1

シークエンス技術の加速によって、個人の全ゲノム配列を読む事が現実的に可能になり、その情報を実際にどのように使うかを決める、枠組み作りが進んでいます。こうした中、英国で、公的医療保健サービスにこの情報を組み込むという、ひとつの方向性が示されました。

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個人ゲノムの全解析を大規模に行うプロジェクトを、英国キャメロン首相が2012年12月10日(現地時間)に発表した。
http://www.number10.gov.uk/news/dna-tests-to-fight-cancer/

発表によると:
国民保健サービス(NHS)がカバーする、癌またはまれな遺伝疾患を持つ患者10万人を対象として、今後3から5年以内に、全ゲノム解析を行う。
英国は全ゲノム解析という新しいテクノロジーを保健サービスの中心に据える、世界最初の国とる。これによって、医師は患者の遺伝的素因・状態・治療の必要性について、全く新しい先進的な理解を得て、今までよりもずっと早く、正しい薬剤を選択し個別に治療を行う事ができるようになる。
また、これによって、人命を救う新たな薬剤、治療法の開発が促進し、科学的ブレイクスルーを起こすことで、今後30年の間に、癌による早期死亡を著しく減らすことができるだろうと専門家は予測している。
政府は1億ポンド(£100 million)を、以下の目的に振り向ける:
英国の若手遺伝科学者が、新たな薬剤や治療の開発を行うようにトレイニングする。これによって英国をこの分野で世界をリードする立場に置く。さらに広範な保健サービス従事者たちが、このテクノロジーをしっかり捉えてコントロールできるように、トレイニングする。
癌と稀な遺伝疾患のためのDNA-シークエンスを加速し、この新しいテクノロジーが患者のためのより良いケアに繋がるように、NHSのインフラを整備する。
更に、
ゲノム解析を行うかどうかは、患者の意思により、解析をしないままでも従来通りのNHSが受けられる。全ゲノム配列データは、個人の医療に使われるまで、匿名化しておく。このデータを保存しておく方法を開発する。NHSを受ける患者のプライバシーと機密保持が最も重要な開発の要件となる。以上のように倫理的配慮の記載があります。

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これは、ノルウェーでの1,000人のがん患者の癌ゲノムシークエンスを行うプロジェクトや、ニューヨークでの1,000人のアルツハイマー患者のゲノム解読といったこれまでのプロジェクトに比べ、規模が大変大きなものとなっています。実際、これまで全ゲノムシークエンスで個人が医学的恩恵を受けた例は、稀な遺伝疾患に限られています(Science Insider)。しかしこの時期に、英国が国のシステムとして、個人の全ゲノムを解析しそれを医療に役立るという方針を出した事は、大きな意味のある事だと考えられます。

次回から、その展望、問題点を掘り下げてみます。

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